読書の秋とか言いますけど、個人的には冬こそが読書の季節。コタツに入ってミカンを食べながら本を読むのって至福の瞬間だと思っています。ってことで最近、内澤旬子さんの『漂うままに島に着き』を男木島図書館で借りて読みました。ルポライターやイラストレーターとして知られる著者が紆余曲折を経て小豆島に引っ越した顛末が克明に記されているエッセイです。私は著者のファンで(とくに彼女が家畜動物について書いている著作が好きで、彼女の出世作とも言うべき『世界屠畜紀行』は大学で教授や先輩らが皆読んでいるちょっとした課題図書といったノリでした)、本作も楽しく読ませてもらった次第です。


本作の後半部分には、移住を考える人に役立ててほしいという意図から著者が見たり聞いたり考えたりした小豆島の様子があれこれ書かれています。確かにその場で生活しながらもドップリとは地域に染まっていない人にしか書けない、ある種の「クールなローカル情報」って意外に欠けているのかもしれないのかもと思いました。もっとこういう個人的なフィルターを通してた「極私的な」地域の紹介みたいなものがあってもいいよねと。移住を考えている人はきっと「移住」「○○市」とかで検索するのでしょうけど、行き着く先は「○○は最高だー!」とか書いている熱いブログや自治体のサイトばかりで、「いやいや、知りたいのはそういうことじゃないから」という感想を抱きながら冷めた目でウィンドウをそっと閉じるしかないわけです。

内澤さんがかの本を書いたのは小豆島に引っ越してから1年半が経った頃のようです。ちょうど私達夫婦は昨年8月に引っ越してきたので、この1月で男木島に住み始めて1年と5ヶ月になります。これぐらい住んでいると島の様々な生活事情が見えてきます。ということでここらで一度「1年半ほど住んだ移住者」から見た男木島という感じで書いてみようかと思います。このところ移住希望者みたいな方々をちらほら見かけますので、そういう人達の参考になればという思いもこめつつ。

この関連の話題は男木島生活研究所が昨年2月頃に「男木島へ移住して来られた方へ伝えること」「男木島の空き家事情」を、一昨年12月頃にちょっとだけ先輩移住者である@shinichiN氏が「田舎暮らしの初期費用と生活費、 男木島編。「家賃の前払い」で暮らしを選ぶ。」というエントリーを書いておられるので併せて参考にしていただければ幸いです。


気候

一般的情報

もうこれぐらい基礎的なところから書きはじめますよ!

いわゆる瀬戸内海式気候というやつです。梅雨以外で降雨が少なく比較的日照時間が長いというやつですね。s

雨量が基本的に少なくて、真冬の最低気温も2度はある。

個人的情報

私達夫婦は男木島に引っ越してくる前は茨城県のつくば市(ひとはあの地域を東北地方南部と呼ぶ)に住んでいました。そこと比較するとやはり雨が少なく暖かいです。夏は日差しが突き刺すように差し込み、うだるような暑さが続きます。冬はさんざん島の人から「男木の冬は寒いぞぉ」みたいに脅されましたが、そこまでではないというのが実感です。確かに西風が強いので体感は寒く感じますが、気温で言うと氷点下にいかないので着込めば余裕です。断熱材をちゃんと施工した家で薪ストーブを焚くと1月だろうが余裕で汗をかけます。

災害

香川は災害が少ない県だと言われますが、実際その通りだと思います。男木島だと脅威があるとすれば、豪雨による土砂災害で石垣が崩れるとかですかね。この前の台風では一部畑の石垣が崩れることもあったようですが、全体として大事には至っていない様子です。その際は夜7時頃から明朝まで停電していたので、その時はちょっとだけ離島の不便さを感じることになりました。とはいえさっさと寝てしまったので、どうということはなかったですけど。キャンドルナイトもたまにはいいものです。

交通機関


一般的情報

男木島へ行く手段は高松港から雌雄島海運が運行する「めおん」というフェリーに乗るのが一般的です。瀬戸内の海は荒れることは稀なので、(冬場の強風の日を除き)基本的には快適な船旅です。約35分ほどで男木島と高松を結んでくれており、遅延はほぼないと言っていいでしょう。壮絶な強風か台風か濃霧でない限り止まることはありません。ただ強風や台風はかなり正確に予測ができるので、対策をとることはそれほど難しくないでしょう。その日にどうしても島を出る必要のある人は前日から高松側に行くなどしておけば良いだけです。濃霧に関しては事前に正確に予測するのは難しいみたいですが、これは春先限定の風物詩みたいなものなので、春の午前中に大事な予定はスケジューリングしないのが賢明かもしれません。昼頃には霧は晴れるので、大事な予定は午後に設定しておくと良いです。

朝一番は男木島発が7時、高松発が8時です。最終は男木島発が17時、高松発が18時10分です。

フェリーの他には海上タクシーを利用する手もあるにはありますが、片道8000円ほどするみたいなので人数が多い時に使うと良いと思います。

個人的情報

実際、島に住んでいると高松に出向くことがだいたい週一回で、少ないときは二週に一回ぐらいしかありません。家族がいる世帯だと自分以外の誰かが買い出しに出かけてくれるなら、高松に出かける頻度はもっと下がるでしょう。

めおんは偶数時間の35分頃(8,10,12,14,16時35分)に男木島付近に姿を現します。その時に必ず汽笛(サイレン?)を鳴らしてくれるのが個人的にはとても気に入っています。島の人達はその音を時報代わりにして動いているようですし、実際私もその音で時間を知る感覚を身につけつつあります。そして島を出る用事のある人はこの音を聞いていそいそと準備をし始める感じです。なんだか牧歌的な光景です。

海上タクシーは実際まだ1回しか乗ったことがないので使い勝手とかはよく分かりません。そのとき(高松で呑んだ帰り)は非常に快適なクルージングで20数分で高松から男木島まで着いたように思います。島民はめおんを足にしているので海上タクシーを日常的に利用する機会はそれほど多くないみたいですね。仕事の関係で島に来る人が多く利用している印象です。

配送事情

一般的情報

郵便や小包みは基本的に遅延なく届きます。しかしながらいわゆる「離島」(離島って不思議なことばだと思いません?離れている島?離れていない島ってあるの?)なので、ネット通販だと不利な立場になることもままあります。

郵便局は島内にあるので、普通に手紙や小包みを出すことはできますが、出すタイミングによっては半日から一日ぐらい遅れることもあると思います。ヤマトをはじめとした配送業者の集荷は個人宅で依頼することはできません。唯一11時便に乗せる形でヤマトに荷物を託すことはできます。この場合は荷物を11時までにフェリーのチケット売り場まで持っていく必要があります。

個人的情報

ネット通販のパターンはいくつかあって、①普通に家まで届く、②-1追加料金なしで男木港に着く、②-2追加料金数百円で男木港に着く、③莫大な追加料金を取られる、④-1配送を断わられる。④-2高松まで取りに行かされる。といった感じです。幸いヤマト運輸と雌雄島海運の御厚意によって(いつもマジでお世話になっております!)ヤマトで配送される場合は追加料金なく家まで運んでもらえるようになっています(パターン①)。他の運送業者だと②から④になります。パターン別の発生確率は①80%、②15%、③2%、④3%ぐらいが実感です。ただしややこしいもの(業務用冷蔵庫や薪ストーブみたいなもの)を頼まなければパターン①の比率はもう少しあがるでしょう。ウチの場合は業務用冷蔵庫は④-2、薪ストーブは③ → ④-2のパターンでした。とはいえ時に普通にアマゾンで小物を買っても断られることもたまにあるのが難しいところです。また通販サイトによれば「離島」=「配送業者に関わらず高額な追加料金」と決まっているところもあるようで、何回かバトルしたことがあります。

50kg×5個という悪魔のような荷物を実家から我が家に送った時の図。これでも追加料金はナシ。ヤマト便にマジで感謝。

島内の移動

一般的情報

基本的に徒歩です。レンタサイクルは交流館というフェリーのチケット売り場を兼ねている建物で借りることができます。ちなみに集落の外縁部分から外はイノシシエリアとなっており、あちらこちらでイノシシが目撃されています。臆病な動物なのでわざわざ人間を攻撃しては来ないと思いますが、あまり刺激しない方が賢明でしょう。灯台や海水浴場を訪れる際は充分にご注意ください。

島民向けのサービスとしてテイラーという農業運搬車の貸し出しサービスがあります。このテイラーは優れもので、積載量600㎏、ダンプ機能つきで、島の道もよっぽど細い所以外は難なく入れます。料金は半日500円、一日1000円です。私も含め若い移住者たちはこれに頼り切りで、これがないとDIY工事は成り立たないと言っても過言ではありません。


個人的情報

私も基本は徒歩ですが、なんせ趣味が自転車なものでちょっと距離がある場合は自転車で行くようにしています。島は坂道だらけですが、我が愛しのファットバイクはどんな場所でも(体力が許す限り)スイスイ行けるので自転車でも大丈夫なのです。ちなみに島で自転車に乗る人はほとんど二つの港を水平移動で行き来するだけで、私のように激坂を登ってまで集落内部まで自転車で進み入る物好きは他にいません。

高松シティ

一般的情報

一応四国を代表する都市ということもあって中心地は賑わいを見せています。大規模な商店街のアーケードにはそこそこ活気があり、買い物もこの商店街に行くと大抵のものが手に入る感じです。ことでんに乗ると瓦町に二駅で出ることができ、フラッグという商業施設の中にはスーパーきむらからスターバックス、ビームス、ジュンク堂まで一通り揃っています。イオンモール高松へは高松駅から無料(!!)のバスが常時運行していて車がなくてもかなり便利に買い物することができます。

県庁も市役所も大きな病院も港から歩いて20分ぐらいの場所に集中しているので、まぁ便利といえば便利かなという感じ。自転車が6時間100円で誰でもレンタルできるのは高松が他の都市に誇れるポイントだと思います。このレンタサイクルさえあれば高松は制したも同然です。

個人的情報

DIYがライフワークになりつつある私達が高松にでかける用事はなんと言っても西村ジョイ屋島店に行くこと。高松に行ったのにジョイに行かない率は10%を切るかもしれません。あとは食料品の買い出しです。西村ジョイ屋島店にはスーパーきむらが併設されているので便利です。もしかしたら5%を切るかもしれません。この間は課長が家まで挨拶に来てくれました。

島民は高松では大忙しです。なんせ2時間に一本しか帰る船がないので、常に帰りの時間を計算しながら動く必要があります。私達のパターンは9時に男木島を出発して、10時前から高松市街のあちこちで用事を済ませて14時か16時の船に乗って島に帰ること。のんびり買い物をしている時間など(多くの場合)ないのです。どんなに遅くても18時10分の船を逃すわけにはいかないので、高松の夜を私達はほとんど知りません。行ってみたいお店とかも色々あるので、その点はちょっと残念です。

西村ジョイなど少し郊外に位置するお店に行くのはやはり車が便利。私達はタイムズのカーシェアリングサービスを利用しています。月額料金は無料利用分で相殺されるので、実際支払うのは利用分(6時間乗ったら4020円)のみ。ガソリン代も不要なので結構便利に使っています。1週間に一回6時間乗るとしても(そんなに実際は使わないけど)月額1.6万円ほどです。台数も数十台は市街地にあるので、前日の予約を忘れなければ乗れないってことはありません。

自転車に乗るのが趣味の私が不満なのが高松市の自転車事情。レンタサイクルの存在は素晴らしいものの、「人と自転車が笑顔で行き交うサイクル・エコシティ」を謳うのであればもう少し自転車が走りやすい街づくりに本腰を入れて頂きたい。とりあえず①自転車を左側通行にすることと、②大きな交差点のたびに地下道に潜らされるのをなんとかして欲しいことをここに記しておきたいと思います。はい、長くなるので不満はここまで。

電気ガス水道

島だからといって特別高いというわけでも特別不便というわけでもないと思います。具体的な値段は伏せますが、まぁこんなもんかなと。ガスはプロパンのみですが、契約せずにカセットコンロだけでやりくりしている家庭も少なからずあるみたいです。ガスの基本料金をカットすることで大幅な節約になるのだとか。

インターネット

島には光回線が引かれていないので、インターネットを使う場合はスマートフォンを使うかWiMAXを使ってWiFiを飛ばすかです。我が家はWiMAXの据え置きタイプを使っています。比較的安価かつ高速で規制もないので結構気に入っています。島の若い人はネットで仕事をしている人も一定数いるのでポケットWiFiを持っている人が多いかもしれません。

WiMAXは台風や凄まじい強風の日などには速度が遅くなったり繋がりにくくなったりしますが、それ以外は普通に快適に使えています。おかげでNetflixでストレンジャーシングスのシーズン2も遅延なく見られます。

島での仕事

一般的情報

島に住んでいる人の仕事のパターンは大きく分けて3つです。①高松へ出て働く、②島の公的施設やフェリー会社に関係した仕事に就く、③島で自分の仕事を興す。島の先輩方は漁師を除けば①②が比較的多く、移住者とされる若い人達は②③がほとんどだと思います。「男木島で」仕事がしたいと考えるなら、②の保育所・小中学校やコミュニティセンターが出す募集に応募するか、漁業農業や小売・サービスといった自分のビジネスを展開するのが近道だと思います。②は細かい仕事の募集も頻繁にあるので、例えば月3〜5万円の仕事を複数個掛け持ちという働き方もここでは現実的な選択肢と言えます。

個人的情報

実際覚悟さえあればどうにでもなると思います。莫大な富を築き上げるのは難しいかもしれませんが、ここで働いて暮らしていくのはそこまで難しいことではないと思います。私は男木島に来るまで大工仕事はやったことなくて、イノシシなんて見たこともなかったのに、今やそれなりの大工仕事は一人でできますし、イノシシを獲って処理するのは冬場の日常の一部になっています。個人的には、たくさんある耕作放棄地を活かして真面目に農業に従事したり、老朽化するたくさんの家屋の細かいリフォームを一手に引き受けたりするのも面白いかなと思ったりしますが(景観を保全・回復するという観点からもこの二つは重要な仕事だと思っています)、まぁその辺りはその人の志向によるのでなんとも。

かつて養老孟司は『バカの壁』という本のなかでこんなことを書いていました。さすがにイイコトをおっしゃる。

仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。
 
 仕事は自分に合っていなくて当たり前です。私は長年解剖をやっていました。その頃の仕事には、死体を引き取り、研究室で解剖し、それをお骨にして遺族に返すまで全部含まれています。それのどこが私に合った仕事なのでしょうか。そんなことに合っている人間、生まれ付き解剖向きの人間なんているはずがありません。
 
 そうではなくて、解剖という仕事が社会に必要である。ともかくそういう穴がある。だからそれを埋めたということです。何でこんなしんどい、辛気(しんき)臭いことをやらなきゃいけないのかと思うこともあるけれど、それをやっていれば給料をもらえた。それは社会が大学を通して給料を私にくれたわけです。

あ、あと個人的には、この島では人がやっていること、やろうとしていることにケチをつけたり足を引っ張ったりすることが全然ないというのも気に入っています。「よー分からんけど頑張りやぁ」ってのは隣人としてありがたい姿勢だなと思います。

住宅事情

住宅事情はプライベートな領域も含んでくるのでここには書きづらいことも多いのですが、ともあれ空き家はあります。ただ状況はかなり流動的です。貸しても良いという話だった家が「やっぱり貸すのやめた」みたいな展開もありますし、逆に「絶対貸さない・売らない」という姿勢だったのにタイミングや話を持っていく人によっては「貸しても良い・売っても良い」になるという展開も多くあります。そこはやはり運と縁ですね。私達が現在住んでいる家も偶然めぐりあえた家ですし(最初は別の家を借りる予定でした)、しかも当初はここを仮住まいにして別の本拠地を島内で探すつもりだったのが紆余曲折をへて家の納屋をお店に改装することになりました。

個人的に思うのは、住宅を決める際には「お金」か「時間」か「覚悟」の3つのうち1つあればOKで、2つあればGreatってことです。基本的に新築ピカピカの家はこの島には存在しないわけで、どんな家でも多少の手直しは必要になってきます。その時に「お金」をかけてサクッと直すのも一つの方法でしょうし、ひたすら「時間」をかけてよりよい物件を探すor自分で直す(よく誤解されるのはこの際に必要なのは「スキル」ではなく「時間」なのです)のも良いでしょう。「お金」も「時間」もかけたくない場合には、現状に堪え忍ぶ「覚悟」が求められると思います。でも暮らし方に正解なんてないはずなので、その人、その家族、その時期にフィットした暮らし方を模索すればいいだけだとと思います。

移住者事情

Uターンも含めると40名を越える人数がここ数年の「移住者」に数えられます。コミュニティと言えるほど立派なものはではありませんが、移住者同士は年齢が近いということもあって、かなり頻繁に会ったり話したり御飯を一緒に食べたりします。狭い島なので週6日は会う感じですかね。お互い自立しているので、仲は良いですがべったり依存という感じではなくいい距離感での付き合いができていると思います。月に1,2回は4家族以上が集まるパーティ的なものもあったりして、子供達も大人達に混じって楽しく遊んでいます。大人達も子供達に混じってウノをしたり人狼ゲームをしたりして大忙しです。

虫事情

初春から晩秋ぐらいまで(つまり一年のほとんどの期間)は常になんらかの虫とか小さな生物たちがあちこちを跋扈しています。私自身は田舎育ちなのでそこまで虫は気にならないのですが、妻は大変気にしている様子です。ただ虫事情は家と庭がどの程度の状態なのかに大きく左右されますし、家があるエリアによっても虫の出方は全然違うようなので一概に言うことはできません。とはいえ、蚊やハエはもちろんのこと、アリ、ゴキブリ、スズメバチ、ムカデ、ナメクジあたりとの遭遇は必然だということを理解していただきたいです。当然その対策も人それぞれなので、徹底的に薬品散布して戦う人もいれば、基本的に放置する人まで様々です。我が家は比較的放置するタイプですが、ハエ叩きが合計3本各部屋に配備されていて、ハチジェット的なものとポイズンリムーバーは玄関に常備してあります。ちなみに妻のお気に入りは凍殺するやつです。


トイレ事情

一般的情報

下水道は男木島には通っていないため、基本的に下水は浄化槽か汲み取りの二択です。浄化槽とその工事は非常にお値段が張るためか(補助金を使っても自腹分が90万前後という話)、設置率は2割ぐらいだと思います。我が家も含む多くの家は汲み取り式のトイレを使っていて、2ヶ月に一回のペースで小さなバキュームカーが来てくれます。引っ越してきた直後はおそらくその家が汲み取りリストから外されているため、電話をしてリストに加えてもらう必要があります。電話をするタイミングが良ければすぐ汲み取りに来てくれますし、タイミング次第では2ヶ月後になります。

個人的情報

我が家も最初は絵に描いたようなボットン便所でした。それもまったく便器がすぼまっていないタイプのやつ。10歳ぐらいまでの子供なら余裕ですっぽり落ちてしまうぐらいの大きな穴が開いているやつです。夏の匂い問題やおつりが来る問題、ウジが湧く問題など多様な問題に悩まされた挙げ句に我が家では簡易水洗を導入することになって今に至ります。これは結構ステキなアイテムでして、一見普通のトイレと変わりません。普通のトイレは水を流して汚物を下水管に流し込むのですが、簡易水洗は少量の水を使って汲み取り槽の中に落とします。便器下部にはフタも付いているため臭いもトイレ室内まであがってきません。DIYレベルでいうと中級ぐらいだと思いますが自分で工事するならネット通販で買えば5万円前後で手に入ります。ランニングコストは汲み取り代ぐらいのもので、料金は2ヶ月で3000円ちょっと。家族が多いともう少し高いのかもしれません。

ゴミ事情

一般的情報

火曜と金曜日が燃えるゴミの日です。資源ゴミや不燃ゴミや粗大ゴミは月一回で、月末の定められた日に港近くの漁協の前まで持っていきます。この日は島中のゴミが集まる日で色んな場所から色んな人が集まってくるので島の各地で井戸端会議が実施される日でもあります。この日を逃すとさらに1ヶ月ゴミ出しが遅れてしまうので、この日に出張なんかが入るとやばいです。予定を入れないのが賢明です。

個人的情報

引っ越してきて最初はひたすらゴミ出しをするフェイズが来ると思います。我が家は幸い母屋は非常にキレイに片付いていたのですが、納屋にはビッチリの荷物が収められていたのでそれを処分するのに時間がかかりました。大量の荷物を処分する方法はおおよそ3つです。①毎月末のゴミの日にチマチマと捨てていく、②バッカンを頼んでそこにゴミを入れていく、③ベンリーなど各種サービスを利用する。①は我が家が実施した方法です。一番安上がりですが、一番体力と時間を必要とします。この日が来るのが楽しみでもありますが、地獄でもあります。月によっては家とゴミ捨て場を15往復したこともあります。②はトラックの荷台サイズの鉄の箱を塵芥センターなどに頼んで持ってきて貰って、その箱にどんどんゴミを詰めていっぱいになったら取りに来てもらうというやり方です。自分のペースで片付けられる点は良いと思いますが、おそらく10〜20万円ぐらいの予算が必要になると思います。③は①との併用になると思いますが、高松のベンリーなどは電話すると来てくれてゴミ出しの手伝いとかもしれくれるので結構頼りになる存在なのです。

畑事情

基本的に畑は余っています。しかしかつては山頂付近まで全て石垣の段々畑になっていたこともあって、誰の持ち物でもない土地はほぼないと思って貰って差し支えないと思います。つまりどんなに耕作放棄地で草ボウボウでもそれは誰かの土地であって、勝手にあれこれするべきでない土地だということです。勝手に果実を取ったりするのはダメ絶対。とはいえ、基本的にみんなフレンドリーなので、余っている畑を貸してくれないかとか、あそこの果実を取っていいかとか聞くとだいたいの場合OKがもらえたり、ここはダメだけどあっちは良いよみたいな代替案を出してもらえたりすると思います。むしろ果実のシーズンになると電話が各方面からかかってきて「いつになったら取りに来るんじゃー!」という熱い言葉を貰うことが多くなります。

島と妻

こんにちは、妻です。私は千葉生まれ茨城育ちの田舎者ですが、快適な実家でぬくぬく育ってきたため、言ってみれば今現在の生活をするのは初めてです。私の特筆すべき初めては①畳、障子、襖の部屋がある家に住む(全部屋和室です)②ボットン便所を使う(しかも外)③お風呂がユニットバスではない④車生活ではない⑤ムカデがいる⑥アシダカグモがいる⑦イノシシと共存するなどなど。衝撃的でショッキングな出会いや出来事の連続でしたが慣れました。いや、慣れてないけど諦めがつきました。とか言いつつ「今年の誕生日プレゼントにトイレが欲しい!」と夫に泣きついたのは事実です。畳の部屋もいずれはステキなフローリングに、あこがれのユニットバスへの夢も未だ捨てていません。ここから先何年もかけて、住んでいる間はずーーーーっと、家のメンテナンスをしたり、快適な暮らしの為に丸ノコを持つ、それがココで暮らすことなんだと思います。そしてそれが凄く楽しいし、刺激的で心地よい毎日を創り出しています。


12時間のドライブを経て引っ越してきた瞬間の図 photo by 額賀順子さん

まとめ

だいぶ長くなりましたが、とりあえず思いつく限りのことは書いたつもりです。分かっていただけると嬉しいのは、基本的に人それぞれだということです。当たり前ですね。私の見る男木島の姿と他の人が見るそれはおそらく全く異なるものだと思いますし、そうじゃないと不自然であるとすら思えます。このように考えると、「○○に行きさえすればハッピーになる」みたいなことはあり得ないことが分かります。私達夫婦はおそらく田舎だろうが都会だろうが外国だろうが全然違う場所に引っ越したとしても結構ハッピーにやっていける自信があります。その暮らしが今送っている暮らしと全然違うものであったとしてもです。おそらく都会に住めば、ヤギを飼おうとかイノシシを捌こうとか畑をしようとか面倒なので考えないでしょう。その場所に適応してまたそこでやりたいことをすぐに始めると思います。でも今はせっかくこの島に住んでいるので、ここでしかできないことや、ここならできることを中心に考えを進めています。

結局、各自がやりたいことをやればいいのだと思います。それを許してくれる懐の深さがこの島にはあります。「お金」か「時間」か「覚悟」のどれかひとつだけでもそこそこ持っていればここで暮らすのに何の心配も要らないと思いますし、むしろ結構楽しめるように思います。

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