我が家から西方を望む 空は曇り 漁船がゆく

電卓を叩いていた妻が、ふと呟いた。

「あ、先月の食費、8000円だ。」

私は思わず目を上げて妻を見る。

「え、マジで?」

大学にいた頃は一人で食費が60000円を超えて(後輩に週5で御飯を奢るような体育会系の空気がそこには手に触れられるほど確かに存在していた)、当時のガールフレンド(現在の妻)に呆れられていた私が、まさか二人暮らしで福沢諭吉が余る事態に遭遇するとは。もし大学時代に戻ることができるなら、当時の私に言ってあげたい。「はよ結婚しろ」と。

およそ8000円だったのは一ヶ月のスーパーでの食品の買い物の合計金額だ。私達はネット通販のようなほかのルートからもわずかながら食品を得ているため、厳密に言うと食費は8000円より少し高くなる。毎日の朝食のパンはネットで25kg単位の小麦粉を取り寄せているため、こういうのは計算が少しややこしい。といっても全部合わせて1万円を越えることはないだろう。日々の生活費全体の話は割愛するが、推して知るべしという感じ。

ここまで食費を低く抑えられているのには二つの大きな要因がある。ひとつは妻が非常にやりくり上手だということ。お金やモノの使い方がとても巧みな彼女がそういう分野で失策をおかすことなどあり得ないと言っても過言ではない。いくつものスーパーの玉子や牛乳の値段を正確に記憶できる能力の持ち主である彼女は、生まれる時代が違っていれば一国の主ぐらいにはなっていてもおかしくないように思う。うん。

もうひとつの要因は私達が実り豊かな男木島に住んでいるという事実に起因するものだ。私達のそれほど大きくない畑でもたくさんの野菜が育ち(この冬にはケールに大変お世話になった)、さらにたくさんの野菜を島のあちこちからもらうことができる。漁師さんは余ったり売り物になりそうにない魚を惜しげも無く譲ってくれる。山に入ってイノシシを獲れば、毎日食べても2週間程度はイノシシ肉が続く。今は何が旬なのかが肌感覚で分かるのは本当にありがたい話だと思う。

このような環境にいる私達にとって、買い出しに出る必要があるのは、牛乳、玉子、チーズといったラインナップ。これらは現状、この男木島では農協以外では手に入れられないのだ。そこで私達の出番となる。ヤギと鶏を飼えばこういったものを買いに街に出る必要もなくなるし、私達の食費は5000円ぐらいになるかもしれない。あと誰かが果樹園をやってくれれば最高!

いや、別に0円生活を目指しているわけではない。そうではなくて、欲しいものは何でも作ることができるということが言いたいのだ。そして作ることは大抵の場合とっても安上がりで、とっても美味しくて、とっても楽しい。お金は最後の手段に取っておこう。1万円で二人が余裕で食っていけると思えば、なんだか肩に入った力が抜けてうまくいきそうな気がするのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です