いつになったらブログ書くの?という妻の視線に耐えられなくなってきたので、最近の気づきについて書いてみようと思います。最近取り組んでいるものには共通点があって、多分その共通点は色んな物事に通じるものなんだなということに気づいたという話です。
子育ての話
まだ生まれて7ヶ月しか経っていないのであまり偉そうなことは言えないですが、実感に従って言うと、「まぁ結構大変」という感じです。最高に大変というほどではないし、徐々に慣れてきてはいるけど、それでもまぁ結構大変です。
子供が生まれる前は、ミルクやったりオムツ替えたりが大変なんだろうなとなんとなく想像していましたが、そこら辺は意外と結構簡単です(世の独身男子よ、安心なされよ)。なぜなら実行すべきタスクが明確であり、実行すればそれはすぐに完了するから。
一番大変だなと思うのが、「時間的制約の長さと強さ」です。生まれたての子供は常に誰か大人が見ている必要があり、その世話をしている大人は子供が寝ている時間を除いて(ときには寝ている間さえも)自由などほとんど存在しないということを最近は痛感しています。ウチは夫婦二人+赤ん坊一人という家族構成で、だいたい常に家族がセットになって動いています。たまに私が2時間ほど用事で家を空けたりすると、これまでの夫婦二人暮らしの頃は、妻は気ままに自分のしたいことや仕事を片付けていたものですが、今だと2時間後に帰宅しても2時間前と家や仕事の状況が全く変わっていなかったりします(妻よ、キミの苦労は充分理解しているつもりだから安心なされよ。いつもありがとう)。今まで二人で20あったパワーが今は二人で15ぐらいしかなく、労働生産性がかなり低下している状況です。さらにそれは二人だからまだ15でキープできているのであって、これが一人用事で抜けると、15–10=5とはならずに、実際は2ぐらいしかなかったりするのです。「あぁ、この1時間抱っこ以外何もしていないぞ」みたいなやつ。
まぁ愚痴はこれぐらいにしておきます。実際この数ヶ月でどんどんラクになってきていますし、ウチの子は結構いつもゴキゲンさんです。
赤ん坊である彼も結構成長していて、不満と睡魔という単純な二項対立的状況を抜け出し、色んなことに欲求や興味を抱きはじめているようです。私ももうダディ歴7ヶ月ということで泣き声と時間のリズムでなんとなく彼の欲求をくみ取れるようになってもきました。
独身時代は赤ん坊の泣き声を聞いてもただの雑音(非難を恐れず正直に言えば不快な部類のもの)でしたが、今はそこに意味を見いだそうとしている私がいます(泣き声を愛おしいと思えるようになるにはまだ修行が足りないようです。そういえば前に私の友人のラッパーが私の子供の泣き声をサンプリングしていたけど、あれはどこかで発表されるのかしら)。そして泣いているという行為に意味を見いだそうとすると、不思議なものでそこに意味が見えてくるのです。捕らえどころがなかったフワフワしたものが急速に像を結ぶようになる感じ。
彼はただただ「赤ん坊」として生きているわけではないのです。私からはとてもちっぽけなものに思える彼の思考、経験、性格、能力、嗜好などに裏打ちされた最も適切な行動をその都度選択しているはずなのです。たまたまその行動がいわゆる「泣く」という形をとることが多いように見えるだけなのです。
これは子育てしてきた諸先輩方にとっては当然のように思えるかもしれませんが、私にとってはちょっとした衝撃的な所見でした。それからというもの、私はまず彼を観察し、大げさに言えば五感を総動員して彼のおかれている状況を把握することにつとめ、その上で彼がどのような行動をとるのか、泣くならどのように泣くのかを意識するようにしています(できていないときも多いですが)。おかげで泣き声の微妙なトーンの違いや泣くときの舌の震え具合、口の開き方、視線の方向などなどあらゆることが色んなパターンをとることが分かってきました。つまり彼は彼のもてる全てをもって自らを表現していたわけです。それに気づくことができるかどうかは、意味を探して観察するかどうかにかかっていると思います。
パン焼きの話
そんな私の現在のメインの仕事のひとつはパンを焼くことです。パン焼きはどこかで修行をしたりしたわけじゃなくて完全に独学です。この島に来てからは工事の時期を除いてだいたい毎日パンを焼いてきました。もう数千回は同じようなことを繰り返していますが、不思議と飽きることがありません。飽きない理由のひとつはもちろんパンが好きだからですが、一番の理由はパンを焼くという単純な行為の裏にある変数が尋常ではなく多くて、予測不可能性が高いからだと思います。ひらたく言えば、出来上がってみるまで分からないからワクワクするってことです。もっと言えば、出来上がったあとも何が作用してそうなったのかを紐解くことはかなり難しいものです。全く同じパンは二度とできません。その時の気温や湿度はもちろんのこと、酵母の具合や混ぜ具合、はては私の気分までもがパンに影響をモロに与えるので、決して同じにはならないのです。「パンがうまく膨らまない!アドバイス求む!」みたいな相談を受けることがままありますが、まぁ正直に言うと、「知らんがな」としか答えようがありません。調整すべき変数は100とか1000とかのオーダーではないのです。私が思うに、パンを焼くというのは無限に近いような数の大量の分岐点があって、それをひとつずつ調整していく感覚なのです。その途方もない作業をする際にほぼ唯一の指標を与えてくれるのは酵母です。これをよく観察することです。酵母の匂いと味とテクスチャーの状態およびその変化をどのように捉えるのか、自分が良いと思うパンを作るためにこの酵母および生地をどういう状態に持っていけばいいと考えるのかがとても重要だと思います(とは言っても、パン作りは誰かと競争したり点数をつけたりするものではないので、自分が満足できればそれが正解です。これマジで。)。
ただどこまでいっても何億匹もいる酵母を直接操ることはかないません。彼らの機嫌を損ねないように環境を少しずつ整えていくしかないわけです。もう少し気温が低い方がいいかな?もう少し発酵時間を長く取った方がいいかな?なんてことを少しずつ少しずつやっていくわけです。答えはできあがったパンに全て現れます。膨らみ、味わい、香り、柔らかさなどなど。そうして出来上がったパンとそれを生み出す酵母を相互に観察して少しずつ試行錯誤を重ねることで昨日よりも自分にとって最高のパンに近づくのです。
イノシシ猟の話
島ライフのアフターファイブの楽しみ方といえば、そう、皆さんご存じイノシシ猟です。猟は始めて1年ちょっとになりますが、当初はそこまで真面目に取り組んでおらず全然イノシシが獲れませんでした。その頃のハンターとしての唯一の仕事は、島のコミュニティで管理している箱ワナに掛かっているイノシシにトドメをさすことぐらい。真面目に取り組みだしたのは前の冬から。くくりワナというワイヤーを使った小さなワナを10個用意し、それを獣道に仕掛けてイノシシの足を捕まえるという方法で、これまで20頭以上獲りました。多分2週間に1頭ぐらい獲れればお店で出しても良い感じに回転すると思うので、もう少し頑張りたいところです。
ちなみに誤解されることが多いのでここで少し触れておきますが、くくり罠というのはトラバサミとは全く異なるもので、バネの力によってワイヤーの輪を一瞬で小さくすることで脚を捕まえるという構造です。万が一人間が罠を踏んでも人間は足が大きいので普通は作動しませんし、もし作動して脚が捉えられても痛くないですし、付属のネジを緩めれば簡単に解除できます。かつて私の仕掛けた罠を島に住むN氏が踏んだことがありました(作動はしていません)。彼いわく「踏んだ瞬間に孫の顔が頭をよぎった」と言っていたので多分、一瞬でよからぬ想像をしてしまったのでしょう。大丈夫。まだまだ孫といっぱい遊べるよ。ビックリさせてごめんね。
イノシシ猟をはじめた当初は、「畑を荒らされている島のお婆ちゃんたちが可哀想だな」とか「うまくいけば肉をタダで獲れるぞ」ぐらいにしか考えていませんでした。山に入っても、「あ、獣道だ。あそこに仕掛けよ」みたいなノリ。今から考えればこれではうまく行くはずがありません。「自然への敬意」が完全に欠けています。
ここで言う敬意には、五感を研ぎ澄ますこと(本当は山歩きするときは音楽でも聴ければ楽しそうなのですが、聴覚を犠牲にするとマジで仕事にならないので諦めています)、イノシシを高等な動物として扱うこと、自然の成り立ちにはすべて理由があること、といった心構えが含まれます。イノシシを小馬鹿にしているうちはハンターとして二流だとさえ思います。地形と植生を把握し、対象とするイノシシの過去の行動パターンから未来の行動を読んでワナを仕掛ける必要があります。ワナを仕掛ける時は、イノシシは自分よりも頭が良いと思うことにしています。「まぁこれで充分だろ」というワナよりも「このポイントを踏まずにこの道を通ることなど不可能。カモフラージュもバッチリ。自分でもどこに仕掛けたか分からんぞ。これぞ初見殺し!」というワナが良いと思うのです。実際、そのようにイノシシにある種の敬意を抱いて接するようになって以来、捕獲件数がグッとあがりました。
結局、何が言いたいのかというと、「生き物を相手にしてるんだから、相手が言葉を持たないからといってバカにしていたらうまくいかないよ。ちゃんと敬意をもってよく観察することが良い結果を生む秘訣だよ。その世界にはその世界なりの道理ってのがあって、それを完全に理解はできないにしても理解しようとする姿勢が大事なのだよ」ってことです。当たり前のことなんですが、意外とできなかったりするんだな、これが。
そのうちパン作りやイノシシ猟についても詳しい記事を書いてみたいと思うのでお楽しみに。